ギターサウンドにおける「歪み」は、プレイヤーの感情をダイレクトに反映する表現手段。その歪みを形作る要素のひとつが、プリ管(12AX7)の選択です。
この記事では、PASVANE EL84パワー管を固定した上で、3種類のプリ管──TAD、Tung-Sol、Mullard──を用い、それぞれの音の“表情”をリード&ウルトラ両チャンネルで徹底比較しました。
「真空管1本でこんなに変わるの?」
そんな驚きとともに、“音が歌う”瞬間を、グラフと耳で感じてください。
🔧 比較条件(すべて揃えました)
今回の比較では、ピックアップ以外の要素をすべて統一し、音質の違いを真空管そのものの個性から見極められるようにしています。録音や解析環境は以下の通りです
- 🎸ピックアップ
ダンカンJB - 🔊 アンプ
Hughes & Kettner GrandMeister Deluxe 40
(LEADチャンネル/ULTRAチャンネル/ブーストON) - ⚡ パワー管(固定)
TAD EL84M - 🧩 プリ管(比較対象)
TUNG-SOL 12AX7(V1〜V3/双極マッチ)
Mullard CV4004/12AX7 (V1〜V3)
TAD V1 E83CC(スロバキア) V2.V3(TAD ECC83cz) - 🎚 録音方式
REDBOXラインアウト → オーディオインターフェース直結
(DAW:Logic Pro) - 🔬 解析ツール
SPAN
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| Tool | SPAN Free / Block 4096 / Overlap 70% |
| Display | FILLED + Anti-Alias / Slope 4.5 |
| Range | –78dB to –18dB / 20Hz–20kHz |
🔬 SPAN設定(解析条件)
🔎 AVG または MAX 設定を使用する理由(掲載用テキスト)
本記事では、解析の目的に応じて AVG(平均)または MAX(最大保持)表示 を使い分けています。
ピックアップや真空管の特性は、一瞬だけ現れるピーク成分や倍音の跳ねに強く表れるため、
そのような瞬間的な変化を確実に捉える必要がある場合は MAX表示 を使用しています。
一方で、フレーズ全体の平均的な音響傾向や帯域バランスを確認する目的では、
極端なピーク成分に左右されにくい AVG表示 を使用しています。
つまり本記事の解析では
「音のキャラクターを見るときは MAX」、「全体傾向を見るときは AVG」という基準で表示方式を選択しています。
本比較テストでは、アンプの設定を以下の通りすべて統一しました。
これにより、音の違いは真空管そのもののキャラクターによるものです。
🎛 アンプのセッティング
- Master Volume:8時〜9時
- Resonance:12時(5)
- Presence:12時(5)
- Treble:12時(5)
- Middle:12時(5)
- Bass:12時(5)
- Volume:12時(5)
- Gain:12時(5)
- Boost:ON
🎨 ラインカラー別 解説(ULTRAチャンネル)



🟡 TAD SET(ULTRAチャンネル)サウンド傾向
- 低域(〜120Hz):
全体的に丸く安定した膨らみを持ち、沈み込むというよりしっかりとした下支えとして機能。
→ 「包み込む」より「支える」タイプの低音。芯があり、ローが曖昧にならない。 - 中低域(200〜600Hz):
ややタイトなピーク構造で、密度よりも輪郭の明瞭さを優先した傾向。
→ 中域がスッと前に出る。バッキングでも潰れず、存在感がある。 - 高域(1kHz〜5kHz):
ピークは明確で、ピッキングのアタックがハッキリ返ってくる。ただし耳に刺さらない。
→ 抜けが良く、ギラつかないプレゼンス。扱いやすくバランスの取れた高域。 - 全体的な印象:
ややブライト寄りながらも角が立ちすぎない、コントロールされた押し出し感が特徴。
PASVANEの沈み込み系EL84との組み合わせにより、音像を引き締める役割を果たしている。
→ シャキッとした立ち上がりと、骨格のある音作りが得意。速弾きや刻みに向く。
🔵 青ライン:Tung-Sol プリ管(ULTRA)
- 低域(〜120Hz)
なだらかな盛り上がりがあり、重心が沈み込むような安定感がある。
→ 包み込むような低音で、下から支えるタイプではなく、空間に広がる。 - 中低域(200〜600Hz)
ピークの山が柔らかく、濃密で厚みのある音の芯が感じられる。
→ バッキングでも刺さらず、自然な中域の膨らみを持つ。 - 高域(1kHz〜5kHz)
アタック成分はあるが角は立たず、滑らかで耳に優しい伸び。
→ プレゼンス帯域も自然で、キツさがない。 - 全体的な印象
ダーク寄りな音色で、PASVANEの沈み込むEL84と好相性。
→ 落ち着き・陰影・余裕を感じさせるトーン。リードにもリフにもマッチ。
💗 ピンクライン:Mullard プリ管(ULTRA)
- 低域(〜120Hz)
膨らみよりも重心の安定感が強く、派手さのない落ち着いたロー帯。
→ 低音の沈み込みは浅めだが、土台としてしっかり支える。 - 中低域(200〜600Hz)
滑らかな起伏で倍音が自然に溶け合う。
→ 中域が美しく歌うタイプ。リフやメロディに向く密度。 - 高域(1kHz〜5kHz)
ピークが均されており、耳あたりが非常に柔らかい。
→ アタックの角を取り、上質なトーンに整える。 - 全体的な印象
タングソルよりさらに“しっとり”した音。余白や空気感を演出できる。
→ 情感豊かなリードや、染みるコード弾きに最適。
| 項目 | 💗 Mullard(ムラちゃん) | 🔵 Tung-Sol(タングソル) | 🟠 TAD(JJセット) |
|---|---|---|---|
| 重心 | どっしりと安定。沈み込みは浅めで支えに優れる | 低く沈み、包み込むようなロー | 中低域に寄る。しっかり芯のある支えるロー |
| 中域の質感 | しっとり滑らか。倍音が自然に溶け合う | 丸く柔らかい。密度があり刺さらない | 輪郭がくっきり。抜け重視で明瞭 |
| 高域の輪郭 | 柔らかく整えられ、耳あたりが良い | 滑らかで耳に優しいアタック | シャープで明瞭。プレゼンスが強い |
| 音像 | 情感を伴った空間感。余白を生かす | 奥行きがあり、立体的に広がる | 平面的だが芯が明確。タイトにまとまる |
| 向いてる音作り | メロディリードやコードの余韻 | 落ち着いたリードや重めのリフ | 速弾き、刻み、明瞭なピッキング |
🎨 ラインカラー別 解説(LEADチャンネル)



🟡 黄ライン:TAD SET プリ管(LEAD)
- 低域(〜120Hz)
押し出し感が強く、やや硬質なロー。沈むより前に出てくるタイプ。
→ タイトで乾いた印象。重厚さは控えめ。 - 中低域(200〜600Hz)
峰が鋭く、パワー感はあるが滑らかさに欠ける。
→ 中域の「押し引き」が強く、刻みには最適。 - 高域(1kHz〜5kHz)
ピッキングの返りが鋭く、抜けは良いが少し耳に刺さる場面も。
→ プレゼンス強め。アタック感重視。 - 全体的な印象
「硬質・明瞭・速い」傾向があり、荒く鳴らしてもしっかり輪郭が残る。
→ 正確さとスピードを求めるプレイヤー向け。
🔵 青ライン:Tung-Sol プリ管(LEAD)
- 低域(〜120Hz)
やや控えめながらも沈み込むローエンド。派手さはないが自然な厚み。
→ 押し出すというより、下から「支える系」の低音。 - 中低域(200〜600Hz)
滑らかで密度があり、耳に馴染む中域。倍音の付き方も自然。
→ 音が「前に出過ぎず」、奥行きが感じられる。 - 高域(1kHz〜5kHz)
アタックは出るが、尖りがなく耳に刺さらない。
→ バランス型のプレゼンスで、ピッキングがナチュラル。 - 全体的な印象
LEADチャンネルでも「暴れずに落ち着いた音」。
→ 歪みを深くしても、質感は滑らか。ミドル〜ロー重視のプレイにマッチ。
💗 ピンクライン:Mullard プリ管(LEAD)
- 低域(〜120Hz)
量感は控えめながら、沈み込みが柔らかく自然。
→ 膨らまず、綺麗に減衰していくローが心地よい。 - 中低域(200〜600Hz)
倍音が美しく重なり、艶のある中域を形成。
→ コードの響きや単音フレーズに表情と色気が出る。 - 高域(1kHz〜5kHz)
やや抑えめで柔らかい。キラキラ系ではなく、自然な丸みを帯びた質感。
→ ピッキングのアタックは穏やかで、歌心をサポート。 - 全体的な印象
LEADチャンネルでも暴れず、滑らかで情感豊かなトーン。
→ 歪んでも耳に優しく、“歌う真空管”の本領発揮。
| 項目 | 💗 Mullard | 🔵 Tung-Sol | 🟠 TAD(JJセット) |
|---|---|---|---|
| 重心 | 柔らかく沈み、膨らまず綺麗に減衰 | 自然に沈むが量感は控えめ | 前に出る傾向でやや硬質なロー |
| 中域の質感 | 倍音が重なり艶あり。滑らかで色気あり | 滑らかで密度感あり。落ち着いたトーン | ピークが鋭く、輪郭が強い |
| 高域の輪郭 | 控えめで自然な丸み。耳あたりが良い | アタック感ありつつも滑らか | 鋭く抜けが良いが刺さる場面も |
| 音像 | 柔らかく情感重視。余白ある響き | 奥行きあり、自然な広がり | 明瞭でタイト。やや平面的 |
| 向いてる音作り | 歌うリード、感情表現の深いフレーズ | 中〜低域の落ち着いたリフやソロ | 速弾き・刻み・パワー系バッキング |
🎛 Logic Pro EQ アナライザー比較(ULTRAチャンネル)



Logic ProのChannel EQアナライザーで視覚化された波形から、各プリ管の音像の傾向を読み解くと、次のような特徴が現れます。
🟡 TAD(JJ系)
ローからミドルまで比較的フラットに保たれ、急激な落ち込みや突起が少ない。これは「骨格がしっかりしつつ、過度に主張しないバランス型トーン」の印象と一致しており、どの帯域も破綻せず整っている。音像としてはやや平面的だがまとまりが良く、ミックス内でも扱いやすい傾向。
🔵Tung-Sol
100Hz〜200Hzあたりに自然な膨らみがあり、1kHz〜2kHzの帯域が少し凹んで見える。高域のスロープもなだらかで、落ち着いたトーンバランスが視覚的にもわかる。中域の滑らかさや立体感は、EQでも穏やかな起伏として確認できる。
🩷Mullard
やや複雑な山谷構造をしており、特に中域(400Hz〜800Hz)付近に特徴的な起伏がある。これは「音が歌う」「じゅわーんと伸びる」ような倍音の重なりや中域の艶を表している可能性があり、視覚的にも個性が強く出ている。
🎛 Logic Pro EQ アナライザー比較(LEADチャンネル)



🟡 TAD
ローから中域にかけて、全体的にフラットで整ったバランスが保たれており、特定の帯域が突出しすぎることはない。ピッキングのアタック成分はやや前に出ているが、全体としては角が立ちすぎないようコントロールされている印象。音像はやや平面的だが、タイトな刻みやミュートに適しており、速弾きでも芯がしっかり残るタイプ。
🔵 Tung-Sol
100Hz〜200Hz付近にやわらかな膨らみがあり、中域も厚みを持って伸びている。1kHz〜2kHzあたりに自然な谷があり、耳に刺さらず落ち着いたトーンを作る要因となっている。高域の減衰もなだらかで、全体として立体感と余裕のあるトーンが特徴。ソロプレイ時に音が前に出すぎず、奥行きと滑らかさで勝負するキャラクター。
🩷 Mullard
中域(400Hz〜800Hz)付近に複雑で特徴的な起伏があり、「歌うような倍音構成」が視覚的にも顕著に現れている。高域の主張は控えめだが、倍音の重なりによって厚みと艶が加わる。波形全体においてもギラつきがなく、リードでも感情表現を重視するような穏やかで“余韻で聴かせる”トーンに仕上がっている。
真空管くん🎤 「じゅわ〜ん…って、音が伸びて歌ってるでしょ?ムラ君は弾かない、”響かせる”の。」



💗「ねぇ…強く弾かなくても、ちゃんと届く音ってあるのよ?」
✏️まとめ:
🎯 音の傾向まとめ(キャラ別)
- 🟡 TAD(JJ SET):
明瞭でタイト。輪郭の出方が鋭く、刻み・速弾きに向く。硬質な押し出し感が特徴。 - 🔵 Tung-Sol:
落ち着いた音像と自然な倍音が魅力。中域に太さがあり、奥行きある“鳴り”を感じるトーン。 - 💗 Mullard(ムラちゃん):
しっとりとした艶感と、じゅわーんと伸びるリード。空間と感情を音に乗せる“歌う真空管”。
🧠 聴感・EQ・SPAN比較を通して分かったこと
- 「音が前に出る・出ない」や「輪郭の強さ」は、EQアナライザーにもしっかり現れる
- 倍音の美しさは、SPANよりLogic EQの起伏で読み取れることも
- グラフと聴感を照らし合わせることで、“スペックに出ない音の個性”がより明確になる
📌 最後にひとこと:
真空管1本の違いが、ここまで音を変える。
だからこそ「自分の音に合う1本」に出会える喜びは、きっと一生モノです。
又、真空管はサウンドの味付けやピッキングニュアンスにも影響があるのも一つです。
📌 この記事で使用している録音・グラフ・画像はすべて、
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