GrandMeister Deluxe 40で長年交換用真空管として推奨されてきたTAD EL84M。その信頼性と音質は多くのユーザーに評価され、EL84の最高ポジションとして確立されてきた。
一方で、ここ数年登場したPSVANE EL84(クラシックシリーズ)は、TAD EL84Mに「音が似ている」「ミリタリー系の質感に近い」と話題になりつつも、まだその“本質的な違い”は広く語られていない。
この記事では、TADを“基準管”とした上で、PSVANEがどこまで迫れているのか、あるいは超える要素があるのかを徹底検証する。
録音したサウンドをFFT(スペクトル)解析とアナライザー表示で可視化し、耳だけでは判断しにくい違いを、数値とグラフでも確かめていく。
似ている。でも、同じではない。
「基準としてのTAD」「新世代としてのPSVANE」──
その実力差、ここで白黒つけよう。
🔧 比較条件(すべて揃えました)
今回の比較では、ピックアップ以外の要素をすべて統一し、音質の違いを真空管そのものの個性から見極められるようにしています。録音や解析環境は以下の通りです
- ピックアップ:
ダンカンJB (TB4) - アンプ:
Hughes & Kettner GrandMeister Deluxe 40(LEADチャンネル ULTRAチャンネル/ ブーストON) - パワー管:
TAD EL84M Psvane EL84 - プリ管:
TUNG-SOL 12AX7 /双極マッチ(V1〜V3) - 録音方式:
REDBOXラインアウト → オーディオインターフェース直結(DAW:Logic Pro) - 解析ツール:
Audacity(FFT) / Logic Pro X(Analyzer POST) - FFT窓関数:
ハミング窓(25kHz表示対応) 
出力やアンプ設定を含む全環境を揃えることで、PUそのもののキャラクター差を視覚・聴覚の両面から検証できるように設計しています。



📈 スペクトル分析(FFT)

このグラフは、GrandMeister Deluxe 40のULTRAチャンネルにて、TAD EL84Mを使用した音源をAudacityでFFT解析し、最大25kHzまでの周波数分布を可視化したものです。
モダン・ハイゲイン環境下でも潰れない音像と、鋭く立ち上がる倍音構造が特徴で、リード/刻み/タイトなミュートリフいずれにおいても優れた応答性を示します。
▶ TAD EL84M(青ライン)の傾向:ULTRA
🎯 鋭さと存在感を生むピーク構造
- 800Hz〜2kHzの帯域に形成された鋭いピークが、音の輪郭を際立たせ、ミドル帯の密度感を高める。
 - 4kHz〜7kHzのプレゼンス帯域が滑らかに上昇し、ヌケの良さと**絶妙なハイの“張り”**が得られる。
 - 特に刻み系リフやファストピッキングにおいては、倍音の立ち上がりが早く、スピード感とアタック感を強調するサウンド傾向。
 
🎯 引き締まったタイトなローエンド
- ローエンドはやや抑えめで、過剰な膨張感を排除し、輪郭の明確な低域を形成。
 - 音がブーミーにならず、ミックス全体に対して整理されたローが収まる設計。
 - パームミュートでもモタつかず、タイトに沈む低音が
 
▶ PSVANE EL84(橙ライン)の傾向:ULTRA
🎯 柔らかく広がる中域とスムーズな倍音
- 800Hz〜2kHzの中域ピークはTADよりもなだらかで、音の押し出しよりも“包み込むような厚み”が特徴。
 - 倍音構造もやや緩やかに立ち上がり、エッジよりもナチュラルさを重視した音像となっている。
 - 刻みやソロにおいては、耳に刺さらず、広がりのある音場感が得られる。
 
🎯 高域は抑えめで、耳に優しいトーン傾向
- 4kHz〜7kHzのプレゼンス帯域は、TADよりやや控えめな上昇カーブ。
 - これにより、抜けの良さよりも、角の取れた上品なトーンが得られる。
 - 長時間の演奏やレコーディングでも、耳が疲れにくいナチュラルな高域特性。
 
🎯 ナチュラルで伸びやかなローエンド
- ローエンドはやや広がりがあり、タイトというよりも豊かさ・ふくよかさがある。
 - パームミュートでも「ズシン」ではなく「ドン」と沈み込むような感触。
 - ミックス全体で聴いたとき、包み込むような下支えを感じる低域。
 

▶ PSVANE EL84(橙ライン)の傾向:LEAD
🎯 中域の粘りと滑らかな音の流れ
- 800Hz〜2kHz付近にピークを持つものの、TADに比べて丸く、なだらか。
→ “前に出る”というより、“空間に溶け込む”ミドル帯。 - ピッキングアタックの反応はややソフトで、強調されすぎずナチュラル。
→ 速弾きでも耳に刺さらず、聴き疲れしにくい音像が得られる。 
🎯 プレゼンス帯域の落ち着きと空気感
- 4kHz〜7kHzの帯域では、TADに比べてピークが控えめ。
→ 抜けの強さよりも、高域が滑らかに流れる「広がり感」を演出。 - オーバードライブ的な質感よりも、アンプ本来のニュアンスが綺麗に出るタイプ。
→ ボーカルや他の楽器との共存性が高いリードトーン。 
🎯 豊かで“沈む”ローエンド
- 低域はやや豊かで、抑え込むよりは「ふくよかに鳴る」タイプ。
→ パームミュートは「バスッ」ではなく「ドン」と包み込むように沈む質感。 - 低音域で音が団子にならず、輪郭を保ったままゆっくりと伸びる印象。
 
✅ 総評(リードチャンネルにおけるPSVANE EL84)
PSVANE EL84は、リードトーンに自然な余韻と“艶”を与えてくれる真空管。
速くて硬いだけのトーンではなく、情感や滑らかさを含んだリードを求めるプレイヤーに最適。
「刺さらない、でも埋もれない。音に温度がある」
それがPSVANE EL84のリードチャンネルにおける魅力です。
▶ TAD EL84M(青ライン)の傾向:LEAD
🔵 中域の鋭さと輪郭の立ち上がり
800Hz〜2kHz付近にシャープなピークが形成されており、
音の芯がくっきりと浮き上がるような**「強い押し出し感」**を生む。
ピッキングに対する追従性も高く、ソロ・刻みにおいても解像度の高い音像を保つ。
🔵 プレゼンス帯域の伸びと明るさ
4kHz〜7kHzにかけて、TAD特有の高域の張りがあり、
抜けの良さとともに存在感の強いリードトーンを実現。
音が遠くまで「突き抜けていく」ような感触があり、空間で埋もれないサウンドに仕上がる。
🔵 タイトでスピード感のある低域
ローエンドは過度に膨らまず、引き締まったタイトさが際立つ。
特にパームミュート時に**「ズシッ」ではなく「パスッ」と切れるようなレスポンスが得られる。
スピード感のある刻みにおいてもモタつかない即応性**が特徴的。
🔵 総評:高解像度で攻める“リード専用”EL84
TAD EL84Mは、ハイゲインかつ高密度なリードトーンを求めるプレイヤーに最適。
どの帯域でも輪郭が崩れず、速弾き・歪み・空間の中での明瞭さがすべて揃っている。
刻むたび、音が前に飛び出す。
リードを“武器”に変える球、それがTAD EL84M。
🎛 Logic Pro EQ アナライザー比較
DAW上のChannel EQで視覚化したスペクトラムがこちら。実際のミックス作業や音作りにおいては、このようなリアルタイムの視覚フィードバックが非常に重要になる。
TAD EL84M

- 全体にシャープで整ったカーブ
 - 800Hz〜1.8kHzあたりに鋭い山があり、輪郭の立ち上がりが明確
 - プレゼンス(4kHz〜7kHz)も緩やかに伸びていて、抜けが良い
 - ローはやや引き締まっており、モダン寄りのタイトなトーン
 
PSVANE EL84

- 同じく800Hz〜1.5kHz付近に山はあるが、TADよりなだらか
 - ロー(100Hz〜300Hz)付近の盛り上がりがやや大きく、ふくよか
 - 高域(4kHz以降)はやや滑らかにロールオフし、耳に優しい印象
 - 中域の太さと高域の丸みが特徴的で、包み込むような質感
 
🎧 聴感からわかる違い
実際に録音したサウンドを聴いてみると、スペクトルで見えた差はそのまま耳で感じるキャラクターにも表れている。
TAD EL84Mは、アタックが鋭く立ち上がり、ピッキングの輪郭がくっきりと前に出る。
タイトなローと明瞭なプレゼンスによって、刻みやソロでも音が速く反応し、シャープに抜けるタイプだ。
高域もストレートに抜けてくるため、演奏が速くても潰れにくく、音像が崩れないのが特徴。
一方のPSVANE EL84は、低域から中域にかけての密度が高く、音の芯が太くて“質量”がある。
ピッキングの立ち上がりはやや滑らかで、倍音も柔らかく、空気感を含んだリードトーンが広がる。
音のアタックはやや穏やかだが、耳に刺さらず“包み込む”ような深みがあるのが印象的だ。
ミックス全体で聴くと、TADは輪郭の明瞭さで前に出る音、PSVANEは厚みと空間で支える音として住み分けられる。
どちらを選ぶかは、求める「存在感」が速さ”なのか、“深さ”なのか──そこが分かれ目になるだろう。
📊 比較表:TAD EL84M vs PSVANE EL84(ULTRAチャンネル)
ここちゃん比較します🎵



起きてます多分・・・
| 比較項目 | 🔵 TAD EL84M | 🟠 PSVANE EL84 | 
|---|---|---|
| アタックの鋭さ | ◎(即応性が高くシャープ) | ○(滑らかで自然な立ち上がり) | 
| 中域の押し出し感 | ◎(くっきり前に出る) | ○(包み込むように太い) | 
| 高域の抜け・明瞭さ | ◎(スカッと抜ける) | ○(滑らかにロールオフ) | 
| 倍音の傾向 | シャープで立ち上がり早い | 柔らかく重なるような倍音 | 
| ローエンドの特性 | タイト・引き締まり感 | やや広がり、ふくよかな低域 | 
| 音の傾向まとめ | スピード感・エッジ・輪郭 | 艶・粘り・包み込み | 
| プレイ適性 | 刻み・速弾き・シャープなリード | リード・ミッド中心・歌わせる音 | 
ここちゃん解説風コメント
🎧「TADは音がパッと前に来る〜!かっこいい✨」
🎧「PSVANEは丸くて“しっとり”な感じ。夜に合う〜☕」
🎧「その日の気分で選んじゃえ〜って思ったよ!」
✏️まとめ:スペクトルは、耳の裏付けになる
主観的な「音の違い」は、数値とグラフで確かに裏付けられる。
そして、グラフだけでは掴みきれない“音の質感”を、耳で感じ取ることで初めて全体像が見えてくる。
今回の比較で見えたのは、どちらもEL84系真空管として非常に高水準なキャラクターを持っているということ。
ただし、その性格は明確に異なる。
🔵 TAD EL84M
→ 音の輪郭が立ち上がり、プレゼンスが抜ける。鋭さとスピード感に優れるタイプ。
🟠 PSVANE EL84
→ 音の粘りと密度、艶感が特徴。情感や余韻を大切にしたリード向き。
最終的には、自分のプレイスタイルと、求める“音の方向性”が選択の決め手になる。
「今日はシャープに決めたい」「今夜はしっとり弾きたい」──
そんな時、耳とグラフの両方で納得できる選択肢があるというのは、とても心強いことだ。
そして何より、PSVANE EL84がここまで進化した真空管であることには間違いはない。
従来の“安価なアジア球”という印象を覆すほど、音の密度と質感はしっかりしている。
「正直、TADとそっくり。でも、ほんの少し“違う味”がある」
このレベルの球が、手に入れやすい価格で使えるのは大きな意味がある。
十分な選択肢として、初めてのEL84交換にもオススメしたい。
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JJの明るさ、ソブテックの粘り、エレハモの輪郭──どれが好みでしょう?
答えはきっと、あなたのピックアップと手グセの中にあります。
最後は耳と心で、一本の真空管を選んでください。
📌 この記事で使用している録音・グラフ・画像はすべて、
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